1号線で行こう! 【制作日誌&舞台裏】
※この記事はリゴレによる制作中、制作済みのゲームに関する舞台裏に関する記事です。商品の説明ではありませんので、こういう記事が好きな人だけお読みください。店長の独り言のような日誌です。
1号線で行こう!はリメイクなのかリバイバルなのか…
1号線で行こう!はドイツの版元が解散したことにより、再販がされておりませんでした。リゴレ店長自身、とても好きなゲームですが、現在は入手困難。非常に高値がついています。初めて実物に触れたのは確か6年前。手に入れるのも苦労しました。結婚してドイツに引っ越した知人女性に頼んで買ってきてもらったのです。…そんな経緯で、リゴレの棚に置かれている1号線で行こう(ドイツ語原題:LINIE1)を見ながら、友人でもあり※日本のとあるボードゲームデザイナーから「好きなゲームなんだったら出版してみれば。待ち望んでいる人もいると思うよ?」と言われたことで、「それならば」と原作者に連絡をしたことが事の始まりでした。
※林久志氏 OKAZU brand 代表作・・・横濱紳商伝,ユグドラサス,いつも素晴らしいインスピレーションをありがとう!!
原作者とイラストレーターさん
・作者のStefan Dorraさん(現在も大活躍するゲームデザイナーです)。に連絡を入れ、出版の合意に至りますが、なんといっても「使えるアートワークがないよ」との事。氏から25年前に販売されたときのイラストレーターFranz Vohwinkelさんを紹介してもらい、イラストワークの依頼をします。その調整に時間が掛かったので、平行して資料集めを開始します。…資料というのは実物のゲームですよ!
Franzさんは海外では大御所中の大御所イラストレーター。Tikalの初版、エルドラド初版、アドベンチャーランド、MTGのカードイラスト、数えだしたらきりがないほどのゲームイラストを描かれています。
資料あつめフェイズ
実物がなくてもゲームは作れるんだけど、モノは見たほうが絶対に良いです。
・現存する「LINIE1」の実物を集めます。私はレアものコレクターではないんですが、資料集めはどんどんします。(アメリカ版street carはスルーしました。理由は割愛)ターゲットは2個。
この3つがリゴレに一時的に存在していたのも凄い。左が第2版、右が第1版です。ぜーんぶレアで、数万円かかる場合もあります。左の第2版もとても人気で、手に入れることができませんでしたが、SNSでの呼びかけに応じて下さった、某氏からお借りしました。本当にありがとうございました。右側の第1版はダメージがあるということで、これはまた別の方からお安く譲っていただきました。…こういう「出版の為の資料として集めたレアなゲーム」が、リゴレの倉庫にすやすや眠っています。改めて3つのLINIE1を眺めていると…版元の倒産によりゲームが絶版になってしまったんだなぁ。と認識が強くなります。
…「版元」によって、ゲームの運命が良くも悪くも大きく左右されるんだなぁと常々考えます。ゲームよって大きい会社が扱った方が良い場合と、小さいショップが扱った方が良い場合と、両方あるんだろうなぁと思っています。(大きい会社より、小さい会社にドラマを感じる人も多いとも思いますが、大きい会社じゃないとできないこと、やれない事、大きいゆえの社会貢献もあります。どちらが正義かを語ろうとは一切思っていません、どちらにも良さはあると思っています)。自惚れたくて書いているのではなく、「そのゲームの運命」っていうのを最近考えるようになりました。人と同じで、ご縁があるんだなぁっていう…。
アートワークの決定
・作者のStefanさんからは「僕は第1版のアートが好きです」と言われたこと。そして僕自身がこの「黄色い電車がぴょん!」ってしてるイラストが好きだという理由から「このイラストをリスペクトし、思いっきり生かそうと」方向性を決めました。なんだか時代を超えるイラストだと思いませんか?吸い込まれるというか、パワーがあるというか…。かくして、25年前のデータの復元をFranzさんにしてもらう事になります。25年前って、多分USBファイルとかないですよね。ファイル形式も現在とことなるので、2週間程度を要しました。(DATファイルから復元したと聞きました。意味はわからならいけど笑)。
・箱絵はともかく、説明書は白黒4ページで図が少ない、タイルやボードは古さを感じる。…というものでした。「昔のままに良さを感じる」人が一定数いる事は理解したうえで、ちょっとこれは、今の人には受け入れがたいだろうという点。それと、ボード上に書かれている一部のイラストが権利的に問題を生む可能性があるという事で、Franzさんとお互いに合意の上でアートワークを一新する事になりました。Franzさんも過去の思い出深い作品のフルリメイクをするのは非常に面白い!と快く応じてくれました。
LINIE 1 is still runing in our city.
いつもはやらないことですが、このプロジェクトのスローガン(キーワード)を作ろうと考えました。LINIE 1 is still runing in our city.[1号線は今でも僕達の街を走っているよ]です。2つの意味が込められています。1つ目の意味はシンプルにそのままの意味です。2つ目の意味は…内緒です。
・海外のイラストレーターさんとゲーム1本、丸ごとの仕事をすることは初めてだったので、丁寧にごあいさつをしながら、こちらの構想を、図をふんだんに使って送りました。常にリスペクの気持ちを持ちながらも、相談、提案を重ねながら制作が進みます。ドイツの都市群については、正直詳しくないので、グーグルアースのストリートビューで古い街を散歩したりしました。大聖堂がある都市を調べたり、ブルワリーを調べたり。何よりイラストレーターさん自身がドイツの方なのでその点は安心でした。「日本から見たドイツ」「ドイツから見たドイツ」そんな話をしていたように思います。私の偏見かもしれないけど、ゲームデザイナーさんは簡略なコミュニケーションを好む方が多いように見え、イラストレーターさんは、フランクな方が多い印象があります。Franzさんはとってもフランクな人でした。そして日本の文化に対しても常にリスペクトを持ってくれました。
・かくして作業開始してから実に7か月後に必要なアートワークの全てが完成します。「ゲームボードは凄く時間が掛かったが自信作だ。きっと喜んでくれるだろう。」という力強いメッセージと共に、ゲームボードのイラストを貰いました。この段階で「このプロジェクトは絶対に成功させたいなぁ!」という気持ちが強まりました。超良かった..。毎日眺めていました。このアートワークを見たStefan氏もテンションが上がったのが印象深いです。
日本チームによる作業
Franzさんイラストレーターさんです。そして「日本語版をつくるのに、ドイツの人に制作を頼んでいる」ので説明書を作ってもらうことは不可能です(正確にはやりようはあるが、合理的ではないです)アートワークが完成するまに、日本側でデザイナーさんを探す必要があります(イラストレーターとデザイナーさんは専門性が全く異なります)。1.箱のオモテ面の調整とウラ面丸ごと。 2.説明書を丸ごと。 3.制作の途中で生じる必要な作業。 それらのデザインできる人が必要です。…要は何でもできる人。リゴレとして、とても信頼を置いているパートナーの、井上磨(いのうえおさむ)さんにお仕事を依頼します。井上磨さんは粘り強さと、豊富な作業経験からくる確かな技術と、江戸っ子みたいな「合点承知」の精神で作業を進めてくれます。またこちらの「想い」に寄り添ってくれるクリエーターさんです。要件定義も確定しにくい状況で「予期せぬ発生ベースの作業が増えてしまうかもしれません。」という案件でしたが快く引き受けてくださいました。心より感謝申し上げます。井上磨さんが居なかったらLINIE1は完成していませんでした。(氏のような、実力のある“その業界の、縁の下の力持ち”が皆の知らない所にいるんでしょうね!最大限のリスペクトを!)
※最終的にはバス停のアルファベットもデザインしてもらいました。ありがとうございます。パンチボードの品質チェックにわざわざ駆けつけてくれたり。本当に感謝しています。中華街の美味しいご飯をご馳走したい(感謝を伝えたいときはすぐに中華をご馳走する)。
工場とのサンプルの往復
実際に工場から届いたサンプルの不備などもあり、実に1年が経ちました。「物」に関しては苦労の多い一年でした。木製品って難しいですね。
どうせ出すなら良いものを…。改善点一覧。
25年前の原版には最大のリスペクトをしながらもきちんとした良いものを出したいと思いました。
○箱の小型化。
箱は第1版をリスペクトし、イラストはブラッシュアップとリファインをしつつも、同じものを使いました。日本でのボードゲームプレイヤーの「持ち運んで遊ぶ」に対応できるように箱サイズをコンパクトにしました。「海外は大きい箱が売れる」というマーケティング要素ですが、日本では不要な大きさに思えるため小型化しました。タイルやマスの大きさなどのゲームサイズは全く変わりません。どんどん持ち歩いて、ガンガン遊んで欲しいのです。オープンボードゲーム会やカフェに持ち込みで遊ぶのに適しているサイズが大切だと思いました。
○ 説明書の整理とカラー化。
白黒4ページから、カラー8ページに増補。とくに説明のための図を追加しました。
○ 袋の追加。
タイルをランダムでひく要素のあるゲームです。あると便利な袋を追加しました。「袋からタイルをひく」手の動き自体が楽しいです。(使いたくない人は山札にしても良いと思います)。
○ スタートタイルの差別化。
旧版は同じであったので差別化を図りました。ウラ面で分けて片付けることができます。
○ 停留所の木製化、アルファベットの差別化。
○ 電車コマをシールから印刷へ。
○ ゲームルールを2種類加える。
過去作2作のルールが含まれます。
○ カード種類別のウラ面の差別化。
デラックス版と言っても良いような改善を施しましたが、お値段は流通価格です。思い出の品の復元ではなく、今の時代の人達に遊んで欲しいと思い制作に当たりました。長年のゲーム愛好家にも、最近ゲームを始めた若い人たちにも、親子にも、お年寄りにも、とにかくいろんな人が遊んでくれた良いなぁ!思います。
※正式な価格の発表はもうしばらくお待ちください。
一号線で行こう!は2021年ゲームマーケットにて「間に合えば」販売予定です!
製造、輸送状況で販売が遅れる可能性があります。(現在、海外の輸送状況が安定しておりません)。
間に合わなかった場合も、年内の発売を目途にスケジュールを調整しております。
楽しみにお待ちください。